Heavy Ion Pub

第44回 Heavy Ion Pub 研究会

日時: 2025年10月3日(金) 15:00 -
場所: 大阪大学理学部H701号室 地図

プログラム

14:55 - 15:00 はじめに
15:00 - 16:15 講演1・野中俊宏(筑波大学)「原子核物質の相図とその臨界点 ― Beam Energy Scanで何が見えてきたか」
16:30 - 17:45 講演2・曽我部紀之(大阪大学)「QCD臨界点の探索に向けて:Beam Energy Scan と理論的課題・展望」
18:00 - Pubセッション(懇親会(+ポスターセッション))

講演1

講師: 野中俊宏 氏(筑波大学)
題目: 原子核物質の相図とその臨界点 ― Beam Energy Scanで何が見えてきたか
概要:

原子核物質の相図を理解する上で、重イオン衝突実験における保存量ゆらぎの測定は重要な手がかりを与える。RHIC-STAR実験では、この相図の解明を目指してBeam Energy Scan (BES, 2010-2017)を実施し、高バリオン密度領域における臨界点の兆候を報告した。さらに精密な測定を目的とした 第2期BES(2019–2021年)が行われており、その最終成果は近く Physical Review Lettersに掲載される見込みである。また、より高密度領域を探索するための固定標的実験の解析も進行中である。本講演では、まず保存量ゆらぎの測定手法と必要な補正技術について概説する。その上で、陽子数ゆらぎの中心衝突度依存性、ラピディティ幅依存性、衝突エネルギー依存性といった最新の実験結果を紹介し、それらの解釈と、今後克服すべき実験的課題について議論する。

講演2

講師: 曽我部紀之 氏(大阪大学)
題目: QCD臨界点の探索に向けて:Beam Energy Scan と理論的課題・展望
概要:

QCD の相図には、ハドロン相とクォーク・グルーオン・プラズマ相の間に、カイラル対称性の自発的破れに伴う一次相転移線と、その終端に臨界点が存在する可能性が指摘されている。しかし有限バリオン化学ポテンシャル領域では格子QCD 計算に符号問題があり、その存在はいまだ確定していない。

この問題に迫るため、RHIC では 2010 年頃から Beam Energy Scan (BES)実験が行われている。この実験では、衝突エネルギーを変化させることで異なる初期状態を生成し、その後の流体発展を経て到達する凍結温度・化学ポテンシャルを観測することで相図の探索を進めている。特に2024 年に米国バークレーで開催された Critical Point and Onset ofDeconfinement(CPOD)では、陽子のゆらぎを特徴づける統計量(キュムラント)が、臨界点を仮定した熱平衡描像と定性的に一致することが報告され、臨界点探索は定量的検証の段階に入りつつある。

一方で、理論的課題も残されている。実際に観測されるゆらぎは、凍結点で決まる単純な平衡値では説明できない。流体膨張に対してゆらぎの応答が遅れる「記憶効果」により、観測値は凍結以前の流体で生成されたゆらぎを反映するためである。

本発表では、この問題に対して、これまでに我々が採ってきたアプローチを紹介する。まず、非平衡場の理論の手法を応用してバリオン数ゆらぎの時間発展を体系的に記述する枠組みを構築した(Sogabe & Yin, JHEP 2022)。この枠組みにより、任意の流体発展を背景とするゆらぎのダイナミクスを数値的に解析できるようになった。

次に、実際の重イオン衝突後の流体発展を組み込むため、実験と比較可能な最も単純な理論モデルを導入した。三次元イジング模型と QCD臨界点の普遍クラスとの対応を利用し、臨界点の性質を取り込んだ状態方程式に基づき、理想流体発展を解析した。その結果、臨界点近傍では、流体がカイラル相転移線上の臨界点とは別の特徴的な点に引き込まれるという普遍的な振る舞いを明らかにした(Pradeep, Sogabe, Stephanov, Yee, PRD 2024)。さらに、この振る舞いが凍結化学ポテンシャルの不連続な「跳び」として観測され得る可能性や臨界点探索に向けた理論研究の展望についても議論する。

参加者一覧

参加者51名